コインチェックの580億円のNEM不正流出から約2週間後の2018年2月8日。イタリアの仮想通貨取引所ビットグレイル(BigGrail)から仮想通貨NANO(XRB)が不正流出したことがわかりました。
被害額は1,700万XRB、米ドル換算で1億7,000万ドル(約220億円)にも上るそうです。これはNanoの全発行量の13%に該当し、これを受けて10日、Nanoは大きく値を下げました。
〈Nanoチャート〉
今回は、コインチェック事件に続く巨額の仮想通貨流出事件について調べつつ、仮想通貨のリスクについて改めて考えてみようと思います。
事件の経緯とビットグレイルの対応
事件が発覚したのは2018年2月8日。1億7,000万ドル分の仮想通貨Nanoが不正流出し顧客への支払いができなくなっていることがわかりました。
ビットグレイルは翌2月9日にホームページにて、ビットグレイルが管理しているウォレットから1,700万Nanoが不正流出したことを発表。管轄当局に詐欺行為に関する告発を提出し、イタリア国内の警察当局を交えて調査中であることを伝えるとともに、調査のために全ての入出金や取引を停止しました。
一方、ビットグレイル創業者のフィラノCEO(Francesco Firano)はTwitterで「ユーザーへの全額補填はできない」とコメントしたそうです。
同じ不正流出事件として、事件発覚後すぐに「日本円での補償」を発表したコインチェックの対応と比べるのは酷かもしれませんが、ユーザーには辛いコメントだと思います。
【Coincheck】流出したNEMの全額返金を表明【総額約460億円】 – 思考は現実化する
Nano開発チームの対応とフィラノCEOの疑惑
この不正流出を受けてNano開発チームはMedium(ミディアム)にて声明を公開しました。
Medium(ミディアム)
シンプルなUIで、誰でも簡単に記事が書けて発信ができるウェブサービス。
それによると、Nano開発チームの予備調査では、元帳で二重支出は検出されなかったため、この損失はNanoプロトコルの問題によるものではなくビットグレイルのソフトウェアの問題ではないかとしています。
また今回の不正流出を受けてフィラノCEOから、損失を帳消しにするために台帳を修正するように要請があったが、Nano開発チームはこれを即座に拒否し「そういったことは不可能であり、我々が進むべき道ではない」としています。
Nano開発チームはさらに「フィラノCEOがビットグレイル取引所の経営状態についてNano開発チームを欺き続けてきた確証がある」と告発。
ブロックチェーンのエントリー、スクリーンショット、チャットログなどの、Nano開発チームが持っているすべての情報を準備し、法執行機関に提示しているとしているのです。
どうやらこの事件は不正流出ではなくフィラノCEOの持ち逃げ疑惑もあるようです。
ビットグレイルと仮想通貨Nanoの関係
仮想通貨Nanoは2018年1月31日にブランド名が変更になる前はRaiBlocks(レイブロックス)と呼ばれていました。
仮想通貨取引所ビットグレイルはこのRaiBlocksの取引所として知られ、その名前もRaiBlocksの「レイ」の発音にちなんでつけられたそうです。
名前だけでなくRaiBlocks自体の取り扱い量も多く、Binance(バイナンス)やKuCoin(クーコイン)といった取引所がRaiBlocksを取り扱いを始める前は、多くのユーザーがビットグレイルで取引を行っていたそうです。さらに、フィラノCEOはRaiBlocksの元開発メンバーの一人でRaiBlocks=Nanoについて詳しかったとみられているそうです。
その仮想通貨RaiBlocksは昨年12月までは0.1~0.2ドルで取引されていましたが、年末年始の仮想通貨高騰を受けて一時35ドルまで急騰。わずか1ヵ月で価格が200倍に跳ね上がったのです。その後、いったん値下がりしたものの、2018年1月31日のNanoへのリブランディング(ブランド名変更)により、再び価格が約40%上昇したのです。
こうした中でBinance(バイナンス)やKuCoin(クーコイン)と並ぶ世界最大級のNano取引所ビットグレイルの顧客資産も相当膨らんでいたと考えられることも、フィラノCEOの持ち逃げ疑惑の背景になっているようです。
実際、ビットグレイルでは今回の事件が発生する前、先月の時点から「10BTC/日」の出金制限も実施されていたそうです。
仮想通貨のリスクについて改めて考えてみる
仮想通貨のリスクを考えるに当たって、まず仮想通貨の「信用」について考えてみます。
一般的な通貨は発行する管理主体が信用を担保して発行しています。
例えば円であれば日本銀行が、米ドルであればアメリカ合衆国連邦準備銀行が発行・管理しており、発行する国の信用が価格を保証しているのです。
そのため例えばジンバブエのような信用のおけない国の通貨は貨幣の信用が低い=価値が低くなります。
一方、仮想通貨は「国や政府機関などの中央管理者を持たない」ことが理念となっています。つまり通常の通貨のように信用を担保している管理主体がないのです。その代わりに仮想通貨の信用を担保しているのが「ブロックチェーン」と呼ばれる技術です。
仮想通貨は「ブロックチェーン」取引を記録・認証し不正な利用を排除する仕組みの信頼性により「信用」=「価値」を認められているのです。
そしてこの「ブロックチェーン」は現在のところまだ破られていません。将来的には量子コンピュータの進歩により「ブロックチェーン」で用いられている暗号システムが破られる可能性があるともいわれていますが、現時点では「ブロックチェーン」が仮想通貨のリスク要因とはいえないと思います。
結局、仮想通貨の最大のリスク要因となるのは、それを取り扱う側のリスクだと思います。
例えば、コインチェック事件のような脆弱なセキュリティも、今回のビットグレイルの不正疑惑も仮想通貨自体の欠陥ではなく、取り扱う取引所やそれを運営する人の問題なのです。
以前、コチラの記事にも書きましたが法律が行き届いていない仮想通貨には、さまざまなリスク要因があります。
しかし、どれも現時点では仮想通貨自体の欠陥ではなく、取扱いに関する問題のような気がします。
巨額の不正流出事件が続いて仮想通貨自体の信用に疑問を持つ人も増えていますが、仮想通貨という考え方自体はやはりとても面白いものだと私は思います。
2018年に入って大きな逆風が吹く仮想通貨市場。これからどのように変わっていくのか今後も注目していきたいと思います。
コメント