こんにちは。
あなたは安楽死ができる国が世界にどれくらいあるか知っていますか?
日本ではまだ公での議論がされていない安楽死ですが、諸外国では様々な条件で安楽死が容認されている国もあります。
今回は、安楽死が認められている国々の安楽死事情と、日本の状況について考えてみます。
安楽死が認められている国と日本の安楽死事情
スイス
スイスは1942年より医師による自殺幇助を容認している国ですが、実は特別な法律は制定されていません。1942年に刑法で「利己的な動機により、他人に自殺幇助をした者は罰する」と定められたのを受けて、「利己的でない自殺介助は処罰されない」と法的解釈することで、合法の起点としています。
1982年に、はじめて自殺幇助団体「EXIT(エグジット)」ができたのをきっかけに、複数の民間団体が活動を行なっています。「Dignitas(ディグニタス:1998年設立)」など、外国人の受け入れを行っている団体もあり、全世界の末期患者が自殺幇助を求めてスイスを訪れる「自殺ツーリズム」の要因となっています。
自殺幇助を容認するですがスイスですが、他者(医師)の手によって直接に死をもたらす安楽死は殺人として許可されていません。また、安楽死(Euthanasia)という言葉はナチス時代を思い起こさせるため、通常、使われないそうです。
オランダ
オランダは世界ではじめて安楽死を合法化した国です。2001年に「安楽死法」が制定され翌2002年に施行されました。安楽死法では医師の手による致死薬の投与・注射が行われる積極的安楽死が認められており、「安楽死処置を行った医師が刑事罰に問われない」と定められています。
2012年には行政の中心都市デン・ハーグに「安楽死専門クリニック」が設立され、患者の自宅に医師を派遣して、投薬による「安楽死処置」をするサービスを行っているそうです。なお、オランダでは安楽死の対象を対象を自国民に限定しています。
ベルギー
ベルギーではオランダに次いで2002年に「安楽死法」が成立しました。ベルギーでは安楽死を「患者の生命をその要請に基づき意図的に終結させる、第三者によって実施される行為」と定義しています。そのためベルギーでは、他者(医師)が致死薬などを投与・注射する積極的安楽死のみが容認され、致死薬を患者本人が服用する自殺幇助は認められていません。
また、ベルギーの安楽死法では、精神疾患・精神的苦痛による安楽死も認められています。2014年には法改正により対象者の年齢制限も撤廃され、条件を満たせば子どもから老人まで安楽死の処置を受けることができます。
安楽死法の成立後、ベルギーでは世界の他地域から安楽死を求めて訪れる「安楽死ツーリズム」の患者が顕著に増えており、スイスに変わる「世界の安楽死中心地」になりつつあります。
ルクセンブルク
ルクセンブルクでは2008年に「安楽死及び自殺ほう助に関する法律」を制定、翌2009年に施行されました。ルクセンブルクでの安楽死は「ある者の生命をその明示的な任意の要請に基づいて医師が意図的に終結させる行為である」と定義されており、他者(医師)が患者に対して致死薬を投与する積極的安楽死を容認しています。
カナダ
カナダでは2016年6月より「医師による自殺ほう助」が合法になりました。これにより医師や看護師が致死薬を投与・注射する積極的安楽死が容認されています。処置を受けられるのはカナダ国籍を持つ人のみで、精神疾患の患者や子どもは対象外となっています。
アメリカ
アメリカでは1977年にカリフォルニア州で生命維持治療を拒否する権利が合法化され、尊厳死を認める州法が制定されたのを機に、各州で尊厳死の法制化が進みました。(アメリカでは一般的に、「安楽死」ではなく「尊厳死」と呼ばれています。)
1994年にはオレゴン州で、6ヶ月以上生存する見込みのない終末期の患者の自殺幇助を認める「尊厳死法」が成立(実際に施行され始めたのは1997年)。同州居住で18歳以上の患者が、一定条件が満たされた場合に限り、処方された致死量の睡眠薬を患者自身が服用することを容認しました。(医師による致死薬の注射は禁じています。)
このオレゴン州の「尊厳死法」を手本に、ワシントン州(2008年)、バーモント州(2013年)、カリフォルニア州(2015年)、コロラド州(2016年)などに拡大し、現在では、8つの州とワシントンDCがあるコロンビア特別区で自殺幇助による「尊厳死」が認められています。
カリフォルニア州、コロラド州では尊厳死法(Death with Dignity Act)ではなく、終末期選択法(End of Life Options Act)と呼ばれています。「尊厳死」を「死ぬ権利」ではなく、自分の人生を終える際のオプション、数多の選択肢の1つとして捉えています。
オーストラリア
オーストラリアでは、かつて1995年にオーストラリア準州(北部特別地域)で医師による患者の自発的安楽死ならびに自殺幇助を世界で初めて認めた「終末期患者の権利法」が制定され、1996年7月の施行後、4件の安楽死が認められました。
ところが準州は州と異なり連邦政府直属であったこともあり、この州法を無効とする法案が提出されるなど激しい議論が続く中、1997年にオーストラリア連邦政府がこの州法を強制的に無効にしてしまいました。
その後、2017年11月にビクトリア州が「自発的幇助死法」を制定。2018年6月より施行され、医師による自殺幇助が容認されました。
この法律では「18歳以上のビクトリア州民で、自分の行為を認識する精神的能力があること」「2人の医師の診察により、疾患の末期で回復不可能であり、耐え難い苦痛を伴っており、6か月以内(神経変性疾患であれば12か月以内)に死亡する可能性が高いと診断されること」を条件に幇助死を選ぶことができます。
申請すれば2種の薬物、説明書が含まれた安楽死用のキットが送付され、患者は説明書の手順に従って2種の薬物を自分で混合・服用することで死を選ぶことができます。
フランス
フランスでは2005年に「患者の権利及び生の終末に関する法律(レオネッティ法)」が成立し、終末期の積極的治療の中止、患者の治療拒否の権利が認めらました。
さらに2016年には「末期患者の持続的な深い鎮静」によって死に至らせることを認める「クレス・レオネッティ法」が可決。医師は末期患者が死を迎えるまで鎮痛剤を投与し続けることが可能になりました。
ドイツ
ドイツでは過去にナチスが障害者約20万人の殺害を、えん曲に「安楽死」と呼んでいたことがあったため、戦後、「安楽死」は獣医が動物に施すものを指すようになりました。
ドイツでは患者に対する安楽死は容認されていませんが、一方で自殺幇助は2016年の法改正まで禁止されておらず、尊厳死を支援する団体「Sterbenhilfe Deutschland」が年間100ユーロの会費を受け取って自殺幇助を行っていました。
しかし2015年に「死亡幇助禁止法案(217条)」が施行、2016年に制定され、自死の意思がある人に対し、これを商業的に支援すると最高で懲役3年、または罰金刑が課せられるようになり、患者が誰からも支援を受けず死に至る薬を飲んだ場合のみ、自殺幇助が合法とされるようになりました。
2020年2月、この法律は末期患者らの「死に関する自己決定権」を奪うものだとして、ドイツ連邦憲法裁判所が違憲と判断。再びビジネスとしての自殺幇助は始まる可能性があります。
韓国
韓国では2016年に患者の意思により延命治療を中断できる「延命医療決定法」が成立、2018年2月に施行されました。これにより、医師2人に死が迫っていると判断された患者は、心肺蘇生術や人工呼吸器着用、心肺蘇生や抗がん剤などの延命治療を中断できる尊厳死が認められるようになりました。
実施には、本人の意思を示した書面も原則必要になるが、書面がなくても家族らの同意があれば延命治療を取りやめることも可能。また、延命治療を最初から差し控えることもできます。しかし、薬物投与で死なせる積極的安楽死は認められていません。
日本
日本では、「安楽死」「尊厳死」は認められておらず、行使した場合、刑法199条の殺人罪、刑法202条の殺人幇助罪・承諾殺人罪で起訴される可能性があります。。
尊厳死を巡っては2003年に「日本尊厳死協会」が厚労大臣に「尊厳死立法請願書」を提出し、「尊厳死」の法制化を求めています。
2012年には、超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」が具体的な法案を公表。これに対して障害者団体の代表などの呼びかけで設立された「尊厳死の法制化を認めない市民の会」は、「患者本人に対して、治療を停止する圧力になりかねない」と反対しています。
また、日本は、先進国で唯一「リビング・ウィル」(尊厳死の権利を主張して、延命治療の打ち切りを希望する意思表示)が法制化されていない国。でもあります。
「リビング・ウィル」について、政府はこれまで医療起訴のリスクが増すことを危惧し書くことを認めていませんえしたが、2017年に「日本尊厳死協会」が行政起訴し、審理の結果、2019年11月に「リビング・ウィル」を書くこと自体は認められました。
日本では、「安楽死」「尊厳死」についてまだ公の場で本格的に議論されたことはありません。「リビング・ウィル」の考えが浸透していけば、今後、日本でも「安楽死」「尊厳死」についての法整備が進んでいくのかもしれません。
まとめ
安楽死については、国ごとに社会背景が大きく異なるため、安易に他の国の制度を導入する、ということはできません。
一方で、生活の質(Quality Of Life)の向上の観点や、自分の最期について考えるリビング・ウィル・尊厳死思想により、「最後の迎え方」をどのようにするのかを考えることの大切さが取り上げられています。
日本では、まだまだ議論が進まない安楽死・尊厳死ですが、諸外国の状況を知ることで、いつか日本の社会に寄りそった答えが出せるようになればと思います。
安楽死が認められている国々の安楽死事情と、日本の状況についての考察は以上です。
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