安楽死と尊厳死

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こんにちは。

あなたは安楽死や尊厳死についてどう思いますか。

全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者からの依頼を受けて、薬物を投与して殺害した「嘱託殺人」の容疑で2人の医師が逮捕される事件がありました。

この事件をきっかけに安楽死の問題について、様々なメディアなどで取り上げられていました。

終末医療にまつわる倫理的な問題として、度々、物議を醸す安楽死や尊厳死。

今回は安楽死・尊厳死について考えてみます。

安楽死とは

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安楽死とは、持続的な苦痛を和らげるために、人生を終わらせることを意図して、意図的に死に介入することです。

元々はギリシャ語で「良き死」「楽な死」を意味するEuthanasiaを語源とし、「心身の苦痛や生活の苦労がなく、楽々としていること」を意味する「安楽」と「死」を合わせた言葉です。

2001年に世界で初めて「安楽死法」が制定されたオランダをはじめ、ベルギー、ルクセンブルグ、カナダのような安楽死が合法化されている国もあります。

また、法律は制定されていませんが、法解釈で自殺幇助が合法となるスイス、州法に医師による自殺幇助が容認されている州のあるアメリカのような国もあります。

一方で、日本をはじめほとんどの国では、安楽死は法律に違反しており、懲役刑を受ける可能性があります。

安楽死の定義

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一口に安楽死といってもその定義はさまざまにあります。

安楽死と自殺幇助

1つの大きな違いは「行為主体」の違いです。

安楽死

行為の主体として他者(医師)が関与。患者に代わって直接、患者の命を終わらせる行為を行います。

自殺幇助

行為の主体として患者本人が関与。患者は、他者(医師)から処方された薬物などによって、自ら命を終わらせる行為を行います。スイスやアメリカの一部の州のように、自殺幇助だけを法的に容認しているところもあります。

自発的・非自発的安楽死と不随意安楽死

安楽死は「自発的」「非自発的」「不随意」に分類することもできます。

自発的安楽死

患者の同意の上で安楽死を行う場合。

非自発的安楽死

例えば、病気の進行や、事故による植物状態など、現在の健康状態で同意できない患者に対して安楽死を行う場合。この場合は、患者の生活の質や苦痛に基づいて、患者に代わって別の適切な人が決定します。

不随意な安楽死

インフォームド・コンセントを提供できるはずの患者に、患者が死を望んでいない、または要求していないのにもかかわらず、安楽死が行われる場合。患者の意思に反して行われることが多いため、殺人と呼ばれています。

ナチス政権は、1930~1940年代に安楽死を悪質な国家政策とし、病人、身体障害者、精神障害者、そして「生命に値しない」と見なされた人々を排除しました。

積極的安楽死と消極的安楽死

安楽死には2つの手順によっても分類されます。

積極的安楽死

積極的安楽死は、患者の命を終わらせる目的で「何かをすること」。他者(医師)が致死性の物質や力を使って患者の命を絶つものが分類されます。

日本では、他者(医師)が積極的安楽死を行った(未遂も含む)場合は刑法刑法199条の殺人罪の対象となります。

過去の判決では、積極的安楽死として許容されるための要件として次の4つが示されています。

①患者が耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいること

②患者は死が避けられず、その死期が迫っていること

③患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと

④生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること

この条件を全て満たす場合は、積極的安楽死が容認されれ刑事罰の対象にならない可能性があります。

消極的安楽死

消極的安楽死は、患者の命を終わらせる目的で「何かをしないこと」。医師らが生命維持治療を差し控えたり中止したりすることで、患者が自然に死亡するにまかせるものが分類されます。

日本の法律では、患者本人の明確な意思表示(意思表示能力を喪失する以前の自筆署名文書による事前意思表示も含む)に基づく消極的安楽死は、刑法199条の殺人罪、刑法202条の殺人幇助罪・承諾殺人罪にはなりません。

患者本人の事前意思表示がなく、且つ意思表示不可能な場合でも、患者の親・子・配偶者などの最も親等が近い家族の明確な意思表示がある場合には、消極的安楽死が容認されることがあります。(親等が遠い家族が親等が近い家族に代わって代理権行使することはできません。)

一方、生命維持治療中止した後、苦悶様呼吸が続き、家族から「楽にしてやってください」と要求があった場合に、致死性の物質などで患者の命を絶ってしまうと殺人罪が適用されてしまうこともあります。

尊厳死と安楽死

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尊厳死とは、不治や末期の病の患者が、自らの意思で延命治療などを止めて、安らかに人間としての尊厳を保ち、自然の経過のまま死に至ることです。

人工呼吸器や胃ろうなどの生命維持装置につながれて辛い闘病を続けるのではなく、緩和医療を受けながら、生活の質(QOL:Quality of Life)を高め、安らかな最後を迎えることです。

安楽死との違い

安楽死は、死期が近く耐え難い苦痛がある患者を、その苦しみから解放させるべく他者(医師)が患者の死を積極的に早めること。一方、尊厳死は、必要以上の延命行為をしないで自然な死を迎えること、という違いがあります。

尊厳死の法制化への動き

日本では、安楽死についての議論はまだ進んでおらず、尊厳死についても明確に法制化されていません。そのため医療現場では、患者が尊厳死を望んでいても、医師自身が罪に問われることを懸念して生命維持装置を外すことを拒否する場合が多いそうです。

一方、家族の要望で末期の患者への治療を中止した医師が警察に逮捕されたり書類送検されるケースも相次いで発生しています。

2007年には、厚生労働省が「終末期医療(現:人生の最終段階における医療)の決定プロセスに関するガイドライン」を策定し、人生の最終段階における医療・ケアのあり方や、方針の決定手順が示されました。

しかし、治療を中止した医師が法的責任を問われる可能性は、依然として残っており、法制化を求める声があります。一方で、「患者本人に対して、治療を停止する圧力になりかねない」と尊厳死の法制化に反対する意見もあります。

安楽死・尊厳死議論の論点と反対意見

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安楽死や尊厳死を巡る議論では、様々な論点や反対意見があります。

安楽死・尊厳死議論の論点

選択の自由

最後の迎え方は、患者が自分で選択できるようにすべきだ。

生活の質(QOL:Quality of Life)

病気や長期の延命治療が、身体的・精神的にどのような苦痛をもたらし、それが生活の質にどのような影響を与えるのかは、患者にしかわからない。(だから、患者の意思を尊重すべきだ。だから他人が判断すべきではない。)

尊厳

全ての人が尊厳を持って死ねるようにしなければならない。

目撃者

他人の長期の延命治療で苦しむ様子を目撃している人の多くは、安楽死が許されるべきであると考えています。

資源

高度な技術を持ったスタッフ、設備、病院のベッド、薬などの資源を、生きたいと思っていない人よりも、生きたいと思っている人のための救命治療に充てる方が理にかなっている。

人道的

難治性の苦しみを抱えている人が、その苦しみを終わらせることを選択できるようにすることは、より人道的です。

愛する人

安楽死は愛する人の悲しみや苦しみを短くするのに役立ちます。

私たちはすでに安楽死を行っている

難治性の苦しみを抱えている最愛のペットを、安楽死で眠らせることは親切な行為とみなされます。なぜこのような優しさが人間に否定されなければならないのでしょうか?

反対意見

医師の役割

医療従事者は、医師の責務・医師としての高い倫理観から、救命を妥協することを嫌がるかもしれない。

道徳的・宗教的な主張

いくつかの宗教では、安楽死は殺人の一形態であり、道徳的には受け入れられないとしています。自殺もまた、いくつかの宗教では「違法」とされています。道徳的には、安楽死は生命の尊厳に対する社会の尊重を弱めるという議論があります。

患者の能力

安楽死は、患者が精神的に能力があり、利用可能な選択肢と結果を明確に理解し、その理解と自分の人生を終わらせたいという意思を示す能力を持っている場合にのみに、自発的に行われます。しかし、能力の判断や定義は一筋縄ではいきません。

罪悪感

患者は、自分の存在が負担をかけていると感じ、同意することを心理的に圧迫されていると感じるかもしれません。家族への経済的、感情的、精神的負担が大きすぎると感じるかもしれません。たとえ治療費が国から支給されている場合でも、病院の職員が安楽死の同意を促す経済的インセンティブを持つかもしれないというリスクがあります。

精神的に病んでいる人

うつ病の人は自殺幇助を希望する可能性が高く、これは安楽死の容認決定を複雑にする可能性があります。

一旦はじまったらコントロールできない

安楽死は、終末期の病人や難治性の苦痛のために死を望む人から始まり、その後、他の人を含め始める危険性がある。

回復の可能性

非常にまれに、患者が回復することがある。診断が間違っているかもしれない。

緩和ケア

優れた緩和ケアは安楽死を不要にします。

規制

安楽死を適切に規制したり、乱用を防ぐことはできません。

まとめ

安楽死・尊厳死は、一部の国で法制化されていますが、日本をはじめほとんどの国では、法律に違反しており、懲役刑を受ける可能性があります。

日本では、まだ公の場で法制化の議論は進んでおらず、終末期の生活の質(Quality of Life)やリビング・ウィルの考えもまだよく知られていない状況です。

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命に係わる問題のため、法制化には慎重な議論が必要ですが、一方で、安楽死に救いを求める声があることもまた事実です。

まずは、私たち一人ひとりが、安楽死や尊厳死について知ること、それを求める人々、反対する人々の状況に想像力を働かせ考えることが必要だと思います。

安楽死・尊厳死についての考察は以上です。

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