「ブロックチェーン」といえばビットコインをはじめとした仮想通貨の基盤技術として広く知られるようになりましたが、仮想通貨以外にも様々な産業で使われ始めているのをご存じでしょうか?
つい先日も、積水ハウスがブロックチェーン技術を活用して不動産賃貸契約を実行するシステムを2018年夏にも稼働させるという報道がありました。
積水、世界初のブロックチェーン活用した不動産情報システム構築 | ロイター
今回は、仮想通貨以外にも広がる「ブロックチェーン」の仕組みと、その活用分野について考えてみます。
「ブロックチェーン」とは
まずはじめに「ブロックチェーン」がどのようなものなのか確認してみます。
Wikipediaによると
ブロックチェーン(英語: Blockchain)とは、分散型台帳技術、または、分散型ネットワークである。ビットコインの中核技術(サトシ・ナカモトが開発)を原型とするデータベースである。
とあります。分散型台帳技術と難しそうな名称がついていますが、わかりやすく言えば
「ブロックチェーン」とはいろいろな機能が付いた台帳ということです。
台帳と考えると、どんな使い方がされているのかイメージしやすいと思います。仮想通貨の場合は、この台帳に「全ての取引記録」を記録しています。
ビットコインの場合、2009年1月3日の誕生から2018年3月23日現在までに306,368,388回のトランザクション(取引)がありましたが、その全てが「ブロックチェーン」に記録されているのです。
出典:Total Number of Transactions – Blockchain
先程の積水ハウスの場合は、自社の管理する物件情報を記録する台帳として「ブロックチェーン」技術を利用しているのです。
「ブロックチェーン」という名称は
「ブロック」と呼ばれるデータの単位を一定時間ごとに生成し、鎖(チェーン)のように連結していくことによりデータを保管するデータベース(Wikipediaより)
であることからのようです。
ブロックチェーンの仕組み
一般的な台帳やデータベースであれば、中央サーバーなどにデータを集約して管理するのが主流です。
ところが「ブロックチェーン」は「分散型台帳技術」「分散型ネットワーク」とあるように、インターネットを通じてつながった複数のコンピュータが同じデータを共有し、お互いのデータが正しいものかを常に監視し合う仕組みで管理されます。
このような中央管理者不在の分散ネットワークは「P2Pネットワーク(peer to peerネットワーク)」と呼ばれています。そして「ブロックチェーン」はP2Pネットワークの技術を応用して作成されているのです。
P2PネットワークというとWinnyやCabosといったファイル共有ソフトを思い出される方もいらっしゃるかもしれません。従来のP2Pネットワークとの違いは「ブロックチェーン」には「PoW(プルーフ・オブ・ワーク)」などのルールが定められている点です。
「PoW(プルーフ・オブ・ワーク)」とは「最も仕事をした人のみ新たなブロックを追加できる」というルールです。ビットコインの場合は「マイニング」によって取引記録が確認されブロックが追加されていきます。
他にも「最も長いブロックチェーンを正当なブロックチェーンとする」というルールがあります。ビットコインの場合、もし不正な手段でブロックを追加されてしまっても、不正なブロックに次のブロックをチェーンすることはありません。なぜなら、不正なブロックを「マイニング」してブロックを追加しても報酬を貰えない可能性があるからです。そのため、もし不正があっても不正なブロックを追加される1つ前のブロックからブロックがチェーンされ不正されたブロックチェーンよりも長くなることで取引記録の正当性を保っているのです。
ブロックチェーンの特徴
「ブロックチェーン」には従来のシステムにはない様々な特徴があります。
データの改ざんが難しい
「ブロックチェーン」では、取引データを集めたブロックを、時系列順にチェーン状につないでおり、そのデータは、直前のブロックをハッシュ関数で暗号化したものを、次のブロックに格納するといった構造になっています。
そのため、もし不正な手段でブロックを改ざんしても、そこから先のブロックを追加し続けてブロックチェーンを伸ばしていかなければなりませんが、それには膨大な計算処理が必要になります。さらに、一部のコンピュータで取引データを改ざんしても、ほかのコンピュータとの多数決によって正しい取引データが選ばれるため、ネットワークでつながっている複数のコンピュータを同時に乗っ取るようなことでもしない限り、改ざんが成立しにくい仕組みとなっているのです。
システム構築や運用にかかるコストが低い
中央サーバーなどの大規模なサーバーが必要ないため、設備投資や維持費用といったシステム面のコストを削減できるといわれています。また「ブロックチェーン」の特性を活かして業務の効率化を図ることによるコストダウンの可能性もあります。
ゼロダウンタイム(稼働停止時間ゼロ)
中央サーバーに依存したインフラでは、定期的なシステムメンテナンスや、一時的な負荷の増大やサイバー攻撃などによって不具合が生じた際に、システムやサービスなどが停止する時間(ダウンタイム)が発生してしまいます。
「ブロックチェーン」では、ネットワークを形成する一部のコンピュータが落ちても他のコンピュータで処理が続行されるため「ゼロダウンタイム」が実現されているのです。
みんなで情報を共有することができる
例えば、銀行などの台帳は、銀行の管理するシステムを通じてしか情報を得ることはできません。しかし「ブロックチェーン」ではネットワーク上にある複数のコンピュータでデータを分散管理しつつ共有しているので、ネットワークにつながっているコンピュータであれば情報を得ることができます。
また同じ規格の「ブロックチェーン」であれば異なる事業者間で容易にデータを共有することが可能になるというメリットもあります。
トレーサビリティ
自動的に取引の履歴が記録され、改ざんが困難な仕組みの「ブロックチェーン」は、信頼性の高い追跡(トレース)機能を有しています。
その利点活かし、「ブロックチェーン」を食品の「生産履歴の追跡」に活用するという取り組みもあるそうです。
生産者が、野菜の植え付けや畑の除草、収穫の状況や、生産地の土壌の状態などの生育状況を写真付きでアップしたデータを「ブロックチェーン」で管理することで、各生産者のデータを共有するとともに、書き込まれた情報が正しいのかを全員で常に監視する仕組みを構築。消費者により信頼性の高い「生産者情報」を提供することで、生産物に「安心」「安全」という 付加価値を付ける試みです。
様々な分野で活用が進む「ブロックチェーン」
これまでのシステムにはない様々な特徴のある「ブロックチェーン」技術は、現在、様々な分野での活用が見込まれています。
「既存システムの置き換え」としての活用
システムの構築や運用コストが低く「ゼロダウンタイム」を実現できる「ブロックチェーン」は、「金融」「証券会社」などの金融業界をはじめとした様々な分野で導入が検討されています。
例えば、全国銀行協会は、各銀行が共同で「ブロックチェーン」を使える環境を整備する方針を掲げています。台帳としての機能だけでなく決済システムなどへも応用することで金融機関の運営コストは10分の1程度まで下がるとの見方もあるそうです。
「ブロックチェーン」は今後、既存のシステムに変わりこれからのシステムの主流になっていくと考えられます。
シェアリングエコノミーの基幹システム
シェアリングエコノミーとは、「カーシェアリング」や「レンタルオフィス」などをはじめとした「物・サービス・場所などを、多くの人と共有・交換して利用する社会的な仕組み」のことです。現在では、ソーシャルメディアを活用して個人間の貸し借りを仲介するさまざまなシェアリングサービスも登場しているなど、所有から共有へのシフトも進んでいます。
このシェアリングエコノミーの基幹システムとして、例えばシェアリングエコノミーに欠かせない本人確認情報を「ブロックチェーン」で共有するなどの試みが行われています。
IoT時代のデータ管理
「IoT(Internet of Things)」とは「モノのインターネット」という名の通り、世の中のさまざまなモノがインターネットにつながることで、膨大な量・範囲のデータが収集・分析されることで、ビジネスや社会全般に大きな革新をもたらすと期待されています。
「IoT時代のデータ管理 」の例としては、先程の積水ハウスのような不動産への応用や、食品のトレーサビリティなどが挙げられます。
例えば、賃貸住宅を借りる際、物件を決めた後も金融機関による審査や重要事項の説明など、煩雑な確認作業が必要ですが、これらの問題を解決する手段として、膨大なデータを保持できる「ブロックチェーン」を活用した情報管理システムの構築が進められています。
この他にも「不動産登記」情報の管理や「貿易業務」、電気や水道などの「公共料金」にも「ブロックチェーン」技術が活用される可能性があります。将来的には電気や水道の利用量に応じて都度、リアルタイムに料金を支払う仕組みができる可能性もあるのです。
政府システム
「データの改ざんが困難」「低コスト」「ゼロダウンタイム」「データ共有性」「トレーサビリティ」に優れた「ブロックチェーン」技術は、政府システムとしの活用も検討されています。
実際に「マイナンバー」に「ブロックチェーン」技術の導入を検討しているという報道もあります。
マイナンバーカードの地域活性化策で仮想通貨技術の活用検討 政府(1/2ページ) – 産経ニュース
また、総務省のホームページで総務省サイト内検索で「ブロックチェーン」を検索すると、464件もの検索結果が表示されました(2018年3月25日現在)。今後、政府システムに「ブロックチェーン」が活用され「電子政府体制」が進むのは間違いないありません。
まとめ
仮想通貨を支える技術として広く知られるようになった「ブロックチェーン」技術。そのため、昨今の仮想通貨関連のトラブルのせいであまり良い印象を持っていない方もいるかもしれませんが、情報管理や決済などで大きなイノベーションを起こす可能性を秘めた技術でもあります。
実際に、食品流通や不動産、貿易など様々な分野の企業が「ブロックチェーン」技術を採用しており、株式市場でもブロックチェーン関連がテーマの銘柄が49銘柄も存在します(2018年03月23日 16:00現在)。
経済産業省の報告では、国内の潜在的な市場規模を67兆円と試算しており、「ブロックチェーン」は今後も幅広い分野で普及が加速していくと考えられます。
ブロックチェーンの仕組みと、仮想通貨以外での活用分野についての考察は以上です。
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