
あなたは、「何をやってもできる気がしない」「自分のことを好きになれない」と感じることはありませんか。そんな気持ちのまま「自信をつけるには、まず自己肯定感を上げなきゃ」と調べているうちに、かえって苦しくなっていませんか。
私もかつては、「もっとがんばらなきゃ」「もっと認められなきゃ」と自分を追いつめ、それでも自分を変えられなくて、自分はダメな人間だと、さらに自分を傷つけていました。(今でも少し、そうかもしれません)
この記事で扱う自己効力感(セルフ・エフィカシー)は、「自分を好きかどうか」とは別の物差しです。心理学の用語で、病名や診断名ではありません。2つは別の概念なので、自分を好きになれないままでも、小さな「できた」を積む入口はある、というのがこの記事の考え方です。合う・合わないは人それぞれなので、試せそうなところだけ持ち帰ってください。
今回は、自分を好きになれなくても「できた」を積める、自己効力感について考えてみます。急がなくて大丈夫です。気になるところから読んでもかまいません。
自己効力感ってどういうもの?
自己効力感とは、ある場面や課題について「自分はこれをやれそうだ」と思える見込みのことです。英語では self-efficacy(セルフ・エフィカシー)といいます。
ポイントは、「この場面なら」と、場面ごとの見込みであることです。料理なら「作れそう」と思えても、人前での発表となると「無理そう」と感じる。同じ人の中でも、場面によって高かったり低かったりします。また、実際にできるかどうかという能力そのものではなく、「できそうだ」という本人の感覚を指す言葉です。
この言葉を提唱したのは、心理学者のアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)です。1977年に発表された論文 “Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change” が出発点とされています。
「自信がない」の中身は、ひとつではない
「自信がない」と一言でいっても、中身は人によって違います。
- 人前で話す場面では、うまくやれる気がしない
- 新しいことを始めようとしても、どうせ続かないと思ってしまう
- そもそも、自分という人間を好きになれない
どれも「自信がない」と呼ばれますが、実は別々の感覚です。最初の2つは「この場面で、やれそうか」という見込みの話で、3つ目は「自分そのものをどう感じるか」という話です。この記事では、前の2つに近い部分を自己効力感として扱います。
「自分はやれる」と「やればうまくいく」は別
バンデューラは、「見込み」を2つに分けて考えました。「自分はそれをやれる」という見込み(効力予期)と、「やればうまくいく」という見込み(結果予期)です。
たとえば「毎日歩けば体力がつく」と思っていても(結果予期)、「でも自分は続けられない」と思っていれば(効力予期)、動き出しにくくなります。自己効力感が指すのは、このうち前者の「自分はやれる」のほうです。
自己効力感と自己肯定感は、どう違う?
自己肯定感は「自分そのものをどう思うか」
自己肯定感は、自分そのものをどう思うかという感覚です。うまくいった日もいかなかった日も、「このままの自分でいていい」と思えるかどうか。何かができるかどうかとは別に、自分の存在をどう受け止めているかに近い言葉です。
自己効力感は「この場面で、やれるか」という具体的な見込み
これに対して自己効力感は、「この場面で、やれるか」という具体的な見込みです。「自分はだめな人間だ」ではなく、「この資料づくりは、できそうだ」「これは難しそうだ」という、課題に結びついた感覚です。
自己肯定感が低くても、自己効力感を積む入口はある
2つは別の概念なので、自己肯定感が低いままでも、自己効力感を積む入口はあると考えられます。
「自分を好きになれたら動けるのに」と思っていると、好きになれない間はずっと止まったままになってしまいます。けれど「この小さな課題ができた」という経験は、自分への評価が低いときでも積めます。ただし、それで自己肯定感まで上がると決まっているわけではありません。
「何をやってもできる気がしない」とき、心の中で起きていること

自己効力感が低い状態とは
自己効力感が低い状態とは、特定の場面について「やれそうにない」と感じている状態です。大切なのは、場面ごとに違うということです。
「何をやってもできる気がしない」と感じているときでも、よく見ると、毎日の身支度や食事の用意など、すでにこなしていることもあるかもしれません。全部がだめなのではなく、「できていること」が見えにくくなっているのかもしれません。
難しいことを避けたくなる、うまくいかない点ばかり目に入る
「できる気がしない」ときは、難しそうなことを避けたくなることがあります。やらなければ失敗もしない、という気持ちは自然なものです。
また、取り組んだあとでも、うまくいかなかった点ばかりが目に入りやすくなると考えられます。10のうち8ができていても、できなかった2のほうが頭に残る、という具合です。
できたことが目に入らない、「たまたま」と割り引いてしまう
もう一つ、できたことが目に入らなかったり、「たまたまだ」と割り引いてしまったりすることがあります。「今回は運がよかっただけ」「誰でもできることだから」。そう受け取ると、せっかくの「できた」が、自分への見込みに結びつきません。
うまくいかなかったことは重く受け止め、うまくいったことは軽く扱う。それが続くと、「できる気がしない」感覚が保たれやすくなるとも考えられます。これは性格の問題というより、受け止め方のくせのようなものかもしれません。
バンデューラが挙げた、自己効力感を育てる4つの情報源
「自己効力感は生まれつきで、変わらないのでは」と思う人もいるかもしれません。バンデューラは、自己効力感は経験などを通じて変わりうると考えました。そして、その手がかりになる4つの情報源を挙げています。ここでは、その4つの中身を説明します。具体的なやり方は、次の節以降で紹介します。
なお、4つの呼び方は本によって少し違います。この記事では、次の呼び方に統一します。
成功体験
実際にやってみて「できた」と感じる経験です。自分の手でやり遂げたという実感がともなう経験です。大きな成功である必要はなく、小さな達成も材料になりえます。
代理経験
自分と似た立場の人が取り組み、できるようになる様子を見ることです。「あの人にできたなら、自分にもできるかもしれない」という見込みが生まれるところがポイントです。
言語的説得
「あなたならできる」といった言葉による励ましや、自分自身への言い聞かせです。
生理的・情動的状態
体や気持ちのコンディションのことです。疲れや緊張、不安が強いときは「今日は無理そう」と感じやすくなります。反対に、落ち着いているときは、見込みも持ちやすくなります。
4つは同じ強さではない
4つの中では、成功体験がもっとも強い情報源とされています。ただ、受け取り方によって効き方は変わります。成功しても「たまたま」と思えば効きにくくなりますし、励ましの言葉も、受け取れなければ響きません。
自己肯定感が低くても始められる、「できた」の積み方

ここからは、自己肯定感が低いときでも試せる「できた」の積み方を紹介します。全部やる必要はありません。合いそうなものを一つ選ぶだけで十分です。
「小さく・具体的に・終わりが見える」サイズにする
最初に決めたいのは、課題のサイズです。目安は「小さく・具体的に・終わりが見える」の3つです。
たとえば「部屋を片づける」ではなく「机の上のものを引き出しに入れる」。「運動を習慣にする」ではなく「靴を履いて、玄関の外に出る」。これくらいなら、できたかどうかがはっきり分かります。
いきなり大きな目標を立てると、達成までが遠く、途中で「やっぱり無理だった」と感じやすくなることもあります。まずは5分で終わるくらいの小ささで十分です。「こんなに小さくていいの?」と思うくらいが、ちょうどよいサイズです。
「できた」を書き残す
次に、できたことを書き残します。メモアプリでも手帳でも、一行でかまいません。
コツは、できた事実だけを短く書くことです。「机の上を片づけた」「15分、外を歩いた」。「えらい」とか「でもまだ足りない」といった評価や反省は、書かなくて大丈夫です。事実だけなら、気分が落ちている日の自分でも、あとから読み返せます。書く気力がない日は、書かなくても問題ありません。
「たまたま」と思ったときの扱い方
「たまたまだ」と思ったときは、その考えを無理に消そうとしなくて大丈夫です。そう感じること自体は、自然な反応です。
そのうえで、「運のほかに、自分が何をしたか」を一つだけ足してみます。「たまたま時間があった。でも、始めたのは自分」「たまたまうまくいった。でも、前の日に準備していた」。心から納得できなくても、事実を一つ加えるだけで、「できた」が自分の行動と少しつながります。
うまくいかなかった日は、能力の証明と考えなくていい
うまくいかなかった日は、「やっぱり自分はだめだ」と結論づけたくなります。けれど、その日の結果は能力の証明ではなく、その日の条件が重なった結果かもしれません。課題が大きすぎた、疲れていた、やり方が分からなかった。そんなふうに分けて眺めるだけでも、受け止め方は少し変わります。
続かない日があっても、これまで積んだ「できた」は消えません。書き残したメモも、そのまま残っています。途切れたら、また小さな一つから始めれば十分です。
一人でやらなくていい、代理経験・言葉・体調を味方にする

自分に近い人の「やり方」を見る
代理経験は、自分に近い人の「やり方」を見ると活かしやすくなります。見るのは結果の華やかさより、手順や工夫です。「どんな順番で始めたのか」「最初はどれくらいの量だったのか」。自分と環境が近い人や、同じくらいのところから始めた人が参考になります。
一方で、遠い存在の人と比べると、落ち込みやすくなることもあります。落ち込むときは、いったん見るのをやめて大丈夫です。比べるためではなく、持ち帰れる工夫が一つあればよい、と考えると距離を取りやすくなります。
励ましの言葉が響かないとき、どう受け取るか
「大丈夫」「あなたならできる」と言われても、響かないことがあります。自己効力感が低いときは、そう感じやすいのかもしれません。それは言ってくれた人のせいでも、受け取れない自分のせいでもありません。
そんなときは、「何を見てそう言ってくれたのか」に目を向けてみてください。「先週の資料、分かりやすかったよ」のように、事実がついた言葉は受け取りやすいことがあります。自分にかける言葉も、「きっとできる」より「昨日は10分できた」のような事実のほうが、無理がありません。
睡眠・疲れ・緊張とのつきあい方
4つの情報源の説明で触れたとおり、体や気持ちのコンディションは「できそうか」の感覚に影響します。調子の悪い日は、課題をいつもより小さくするのも一つの方法です。
睡眠不足の日は大事な判断を避ける、始める前に深呼吸やストレッチで体を少しゆるめる、前の日に準備を済ませておく。そのくらいの工夫が考えられます。ただし体調には個人差があり、ここで挙げたことが誰にでも合うわけではありません。
つらさが長く続くときは
落ち込みや「できない」という感覚が長引き、日常生活に支障が出ているときは、専門家に相談するという選択肢もあります。精神科・心療内科、カウンセリング、自治体の相談の場など、いくつか種類があります。一人で抱え込まなくて大丈夫です。
まとめ
自分を好きになれなくても、小さな「できた」は積めます。自己効力感(セルフ・エフィカシー)は、「この場面なら、やれそう」という見込みのことです。押さえておきたいのは、次の3点です。
- 自己肯定感(自分そのものへの感覚)と自己効力感(この場面への見込み)は別のもの
- 入口は、小さく・具体的で・終わりが見える成功体験を、事実だけ書き残して積むこと
- 一人でやらなくていい。似た人のやり方、事実のある言葉、体調への配慮も味方になる
「自分を好きになってから動こう」と、待たなくて大丈夫です。今日はまだ何も積めなくても、それで何かが決まるわけではありません。気が向いたときに、小さな一つから始めてみてください。
「どうせ自分には無理」という感覚が、子どもの頃の経験から形づくられた、思い込みのシナリオのように感じられる人もいます。そうした見方に興味があれば、人生脚本の記事も読んでみてください。
自分を好きになれなくても「できた」を積める、自己効力感についての考察は以上です。

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