セルフ・コンパッションとは?人には優しいのに、自分には厳しくなってしまう人へ

あなたは、人には「大変だったね」と声をかけられるのに、自分のこととなると「なんでこんなこともできないのか」と厳しくしてしまうことはありませんか。

自分への厳しさは、失敗したときだけに出てくるとは限らないのかもしれません。私自身は、他人からのほめ言葉、賞賛を素直に受け入れられず「自分なんて」と必要以上に謙遜してしまいます。自分自身が自分に対しての一番のアンチになっているのです。

今回は、人には優しいのに自分には厳しくなってしまう人のための、セルフ・コンパッションについて考えてみます。自分に厳しいことを責めたり、やめさせたりする話ではありません。

セルフ・コンパッションってどういうもの?

セルフ・コンパッション(self-compassion)とは、日常の言葉で言うと、苦しいときに、自分を責める側ではなく、支える側に回ることです。「コンパッション」は思いやりと、セルフ・コンパッションは「自分への思いやり」と訳されることがあります。セルフコンパッションと書かれることもあります(この記事では「セルフ・コンパッション」で統一します)。

研究者のクリスティン・ネフ(Kristin Neff)が、2003年に発表した論文で、自分に向ける健全な態度の一つとして、この考え方を整理しました。ネフが2023年にまとめた総説の要旨では、自分の失敗や不十分さに向き合うときや、人生の困難で苦しむときに、自分を支えるあり方として説明されています。この記事の研究と団体へのリンク先は、英語のページです。

セルフ・コンパッションは、心理学で使われる用語で、病名や診断名ではありません。「セルフ・コンパッションが足りない人」を判定するための言葉でもありません。自分への関わり方の一つの呼び名、と受け取ると、つかみやすくなります。

人には優しくできるのに、自分には厳しくなる

次の場面は、イメージしやすいように用意した架空の例です。

後輩に頼まれた資料を、約束の日に仕上げられなかった。同じことが友人に起きたなら、「それは気が重いよね」と声をかけると思います。ところが自分のこととなると、「約束も守れないなんて、社会人失格だ」という言葉が浮かんでくる。友人には向けないような、強い言葉です。

この落差に気づいて、「自分は冷たい人間なのでは」と感じる人もいるかもしれません。けれど、責める声が出てくることを、さらに責める必要はありません。

3つの柱は、自分へのやさしさ、共通の人間性、マインドフルネス

ネフのモデルでは、セルフ・コンパッションは3つの柱で説明されます。順に見ていきます。

自分へのやさしさ:責める代わりに、いたわる

うまくいかなかった自分を、責める言葉で追い込む代わりに、いたわる言葉を向けることです。この記事では、いたわるとは、叱ったり、評価したり、気持ちを無理に切り替えさせたりすることではなく、つらさそのものに気を配ることです。

共通の人間性:苦しさや失敗は、人間につきもの

失敗したり、不十分さを感じたりすることは、人間の経験に広く含まれている、という捉え方です。落ち込んでいると、「こんなことになるのは自分だけだ」と感じることがあります。共通の人間性は、その感覚をゆるめる柱です。

マインドフルネス:苦しさに気づき、のみ込まれずに見る

苦しい気持ちを、なかったことにせず、かといって大きく膨らませもせず、「いま、苦しいんだな」と気づいて眺める姿勢です。ここでは、マインドフルネスを「いまの経験に気づいていること」くらいの意味で使っています。

それぞれの反対側

3つの柱には、それぞれ反対側があります。自分を責め続ける自己批判、「自分だけがこうだ」と感じて閉じこもる孤立、苦しさにのみ込まれて、そのことしか考えられなくなるのめり込み(過剰同一化)です。

セルフ・コンパッションと、自己肯定感・自己受容は、どう違う?

似た言葉が多いので、ここで整理します。

自己肯定感は「自分そのものをどう思うか」

日本語の「自己肯定感」は、資料によって幅広い意味で使われる言葉です。この記事では、自己肯定感を「自分そのものをどう思うかという感覚」とします。うまくいった日もいかなかった日も、「このままの自分でいていい」と思えるかどうか。何かができるかどうかとは別に、自分の存在をどう受け止めているかに近い言葉です。

セルフ・コンパッションとの違いを、この記事では次のように整理します。自己肯定感は感覚なので、そう思えない日は思えません。セルフ・コンパッションは関わり方で、そう思えないままでも選べます。

セルフ・コンパッションの研究には、自尊感情と並べて比べた調査があります(Neff & Vonk、2009年)。自尊感情は、この記事では、自分に価値があるとどのくらい評価しているかの高さを指す言葉で、ここでいう自己肯定感と同じ意味ではありません。

自己受容とは、足すものが違う(この記事の整理)

自己受容(セルフ・アクセプタンス)は、良い・悪いの判定を挟まずに、今の自分を認める関わり方です。ここでいう「認める」は、起きたことと、そのときの気持ちを、判定を挟まずにそのまま言葉にすること、という意味です。詳しくは、自己受容の記事で扱っています。

自己受容とセルフ・コンパッションは、どちらも自分への関わり方の仲間で、足すものが違います。これは出典にある分類ではなく、この記事での整理です。ほかの整理の仕方もありえます。

  • 自己受容:認めるときには、評価や反省、励まし、「次はこうしよう」といった言葉を足さず、いったん何も足さずにおく。
  • セルフ・コンパッション:認めることに、いまの苦しさに向けた温かさ、つまりいたわりを添える。変えるための言葉ではなく、つらさに向けた言葉。

認める言葉といたわりの一言は、言葉の上では近いことがあります。違いは、気持ちを確かめるだけか、つらさを気づかう気持ちで向けるかです。

どちらが上でも、先でもありません。認めるだけで十分な日もあれば、一言添えたい日もあります。

厳しくしないと伸びない?研究で分かっていること、まだ分かっていないこと

厳しさに支えられてきた感覚

自分に厳しくすることで、期限を守り、ミスを減らし、ここまで来られた。そう感じている人にとって、「自分に優しく」という言葉は、これまでの支えを手放してと言われているように聞こえるかもしれません。厳しさに支えられてきた面があることは、否定しなくて大丈夫です。

そのうえで、「優しくすると、甘くなるのでは」という心配について、研究でどこまで分かっているかを見ていきます。以下は、論文の要旨(抄録)などで確認できた範囲で書いています。先に結論を書くと、「優しくすれば伸びる」とも「甘くなる」とも言い切れる段階ではありません。途中の研究の話は、読み飛ばしても、この節の最後の「分かっていること、まだ分かっていないこと」で要点がつかめます。

自分への思いやりを促したら、改善への意欲が高まった実験

Breines & Chen(2012)は、いくつかの実験で、自分への思いやりを向けるよう促された人たちを、自己価値を高めるよう促された人たちなどと比べています。

自分への思いやりを促された人たちでは、自分の弱点を振り返ったあとに「その弱点は変えられる」という考えが強まりました。また、最初に失敗したあと、難しいテストの勉強に使う時間が長くなりました。「自分に優しくすると、意欲が下がる」とは限らないことを示す結果です。

ただし、要旨からは、参加者の人数や効果の大きさは分かりません。調べているのは意欲やその場での短い行動で、成績や成果が長い期間で伸びたかどうかまでは示していません。

効果を調べた研究と、偏りのリスク

Han & Kim(2023)は、セルフ・コンパッションを育てる取り組みの効果を調べた、ランダム化比較試験(参加者を無作為に分けて比べる方法)56件をまとめて分析しました。

取り組みの直後で見ると、うつ、不安、ストレスのいずれも、小さいものから中程度の効果でした。待機や通常のケアなど、この取り組みを受けない状態と比べると中程度でした。別の取り組みとの比較では、直後の時点で、いずれも差は見られませんでした。この比較をした研究は少なめです。なお、ここで見ているのは心の不調の指標で、仕事や勉強の成果ではありません。

また、著者自身が、研究の偏りのリスクを評価しています。偏りのリスクとは、研究のやり方によって結果がゆがんで見える可能性のことです。56件のうち、リスクが低いと評価されたのは2件で、全体としては偏りのリスクが高いと評価されています。

測り方への批判

Muris & Otgaar(2020)は、理論上の定義に限界があることや、研究でよく使われる尺度に、自分を責めるなど思いやりとは逆の項目も含まれ、その得点が心の不調に関わる特徴の影響を受けることなどを論じています。尺度を使い続けるなら、思いやりの項目だけを使うか、逆の項目と分けて扱うことを勧めています。これに対してネフは、2020年の論文で、尺度の合計点は使える、と反論しています。

研究を読むときの背景として書き添えると、ネフは、クリス・ガーマー(Chris Germer)とともに、マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)の講座などを提供する非営利団体 Center for Mindful Self-Compassion を2012年に設立しています。

分かっていること、まだ分かっていないこと

いまの研究で言えそうなのは、自分への思いやりを促されても意欲が下がるとは限らないこと、そして、うつ、不安、ストレスで小さいものから中程度の効果を示す結果があることです。ただし、別の取り組みと比べると、直後の時点で差は見られませんでした。分かっていないのは、成績や成果が長い期間でどうなるか、偏りのリスクが高い研究が多いなかで効果がどこまで確かか、測り方が妥当か、という点です。

厳しさを手放すかどうかを、これらの研究が決めてくれるわけではない、というのが現状です。

3つの柱を日常で試す、友人を思い浮かべた3つの問いかけ

3つの柱を日常で試せるように、柱ごとに一つずつ問いかけを用意しました。どれも「同じことが友人に起きたら」と仮定して考え、出てきた言葉を自分に向けます。友人が思い浮かびにくいときは、家族や大切な人でもかまいません。

これは、マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)など、研究で試されているプログラムの手順ではなく、この記事で考えた試し方です。効果を約束するものではありません。どの問いかけから始めてもよく、合わないと感じたら飛ばしてかまいません。

例は、記事の前半で用意した架空の場面(後輩に頼まれた資料を、約束の日に仕上げられなかった日)を使います。

1. 自分へのやさしさ:友人に、どんな言葉をかけるか

友人が「資料を約束の日に仕上げられなかった」と打ち明けてくれたら、どんな言葉をかけるかを考えます。ここでは、つらさそのものに向けた一言だけを選びます。

  • つらさに向けた一言:「それは気が重いよね」「焦ったよね」
  • 脇に置く言葉(評価):「あなたは悪くないよ」「よくやってるよ」のように、良い・悪いの判定にあたる言葉
  • 脇に置く言葉(助言):「次は早めに始めたら」のように、変えるための言葉

脇に置く言葉も、友人にかけるなら自然な言葉です。ここでは、認めることに添える一言を、つらさに向けたものに絞っているだけです。

一言が浮かんだら、書き出すか、心の中で自分に向けて言ってみてください。浮かばないときは、「しんどいよね」だけでも十分です。

2. 共通の人間性:「自分だけだ」と言う友人に、何と返すか

友人が「こんな失敗をするのは自分だけだ」と言ったら、何と返すかを考えます。たとえば、「こういう日は、誰にでもあるよね」という返し方です。浮かんだ言葉を、自分にも添えてみます。

これは、つらさを軽く扱うための一言ではありません。「大したことない」と言うのとは別のことです。「自分だけがこうなのだ」という感覚をゆるめて、一人で抱え込んでいる状態から少し離れるための一言です。

3. マインドフルネス:友人の話から、どんなつらさを受け取るか

友人の話を聞いたら、どんなつらさがあると受け取るかを考えます。話を大きくも小さくもせず、「約束を守れなかったことが気がかりで、後輩にどう思われたかも不安なんだね」と聞くイメージです。

同じように、「いま、気がかりで、不安なんだな」と自分に向けてみます。つらさを解決しなくても、気づくだけでかまいません。

言葉がしっくりこない日は、言葉以外でもいい

優しい気持ちになれていなくても、問いかけることはできます。それでも、優しい言葉がしっくりこない日はあります。そんな日は、言葉以外の形でもかまいません。

  • 温かい飲み物を、両手で持つ
  • 胸や腕に、そっと手を当てる
  • 何もしないで、少し座っている

認めるだけの日と、一言添える日

自己受容との違いとして整理した「足すもの」の違いは、日によって使い分けることができます。

  • 声も気持ちも荒れているとき:「認める」だけにとどめます(判定を挟まず、起きたことと気持ちをそのまま言葉にすること)。いたわりの言葉は足さなくて大丈夫です。
  • 少し落ち着いて、認めるだけでは冷たく感じるとき:評価も助言も入れない、いたわりの一言を添えてもかまいません。
  • 言葉がしっくりこない、白々しいとき:言葉ではなく行動に変えるか、何もしないでおきます。

優しくしようとして落ち着かないとき

優しい言葉が、かえってざわつくことがある

自分に優しくしようとしたとき、かえって悲しさや恥ずかしさ、不安が出てくることがあります。2024年の論評(Cai)は、このときに生じる最初の苦痛をバックドラフトと呼び、自己批判、恥、悲しみ、不安、体の不調などとして現れることがある、と述べています。

ただし、この論評は、実際に調べた研究ではありません。この論評によると、バックドラフトを実際に調べた研究は、論評の時点では見当たらず、どんな対処が有効かも確立していません。

優しい言葉に落ち着かなさを感じたとき、それは「やり方が間違っている」「自分がおかしい」という意味だとは限りませんし、そう受け取る必要もありません。

そう感じたら、続けなくていい

言葉を向けていて落ち着かなくなったら、そこでやめて大丈夫です。やめるのは失敗ではありません。

言葉を向けるのをやめる。言葉ではなく、行動に切り替える。別のことをして過ごす。どれも、選んでいい選択肢です。

またやってみたくなったときは、そのときに戻ってきてください。

つらさが長く続くとき

落ち着かなさや、責める気持ち、落ち込みが長く続いて、日々の生活がつらいと感じるときは、一人で整理しようとしなくて大丈夫です。話を聞いてもらえる身近な人、かかりつけ医などの医療機関、心理の専門職、電話や窓口で相談できる支援機関。相談の形はいくつかあります。合いそうなところから、選んでください。

まとめ

自分に厳しい人に持ち帰ってほしいのは、次の3点です。

  • セルフ・コンパッションは、苦しいときに、自分を責める側ではなく、支える側に回る関わり方です。自分へのやさしさ、共通の人間性、マインドフルネスの3つの柱で説明されます。
  • 研究には、意欲が高まった実験や、うつ、不安、ストレスで小さいものから中程度の効果を示す結果があります。同時に、別の取り組みと比べると直後の時点で差が見られないこと、偏りのリスク、測り方への批判という限界もあります。両方を知ったうえで、試すかどうかを選べます。
  • 合わない日は、続けなくていい。落ち着かなさを感じたときにやめるのは、失敗ではありません。

人に向けている優しさを、ほんの一言だけ、自分にも向けてみる。次に責める声が聞こえたら、友人なら何と言うか、思い浮かべてみてください。

評価を挟まずに認める関わり方については、自己受容の記事で詳しく扱っています。

人には優しいのに自分には厳しくなってしまう人のための、セルフ・コンパッションについての考察は以上です。

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